星野監督はなぜ短期決戦に弱いのか

 締切のすぎた原稿ややらなきゃいけない仕事が溜まっているにもかかわらず、けっこう連日オリンピック中継のテレビ観戦で忙しくなっています。きょうもこれから野球を見る予定です。
 さて、その野球ですが、苦戦をしています。日本代表にはわがドラゴンズから最多の4人が入っていますが、あまり活躍していないし、台湾代表のチェンを含めると5人抜けたドラゴンズは4連敗を含めてどん底状態。と、ドラゴンズ・ファンとしての愚痴を書こうというわけではありませんでした(つい愚痴ってしまいましたが)。テーマは、星野監督はなぜ短期決戦に弱いのかというものです。
 星野監督は、ドラゴンズ時代に2回、タイガース時代に1回、計3回の日本シリーズをことごとく負けています。下馬評は3回とも戦力は優勢といわれていたにもかかわらず、です。ドラゴンズ・ファンとして、現役時代からの星野監督を見ていましたし、選手として1回、監督として2回リーグ優勝に貢献した感謝の念もあり、声援を送っているのですが、短期決戦に弱いといわれても仕方がないかなと思います。
 では、星野監督が短期決戦に弱いということを事実とした場合、どこに原因があるのかということですが、それは、星野監督の監督としての長所が短期決戦では短所になっているという気がします。その監督としての特徴は、試合の采配という戦術面では、最悪の結果を想定した細心の注意を払うという点にあります。星野監督は、豪放磊落な演技とは裏腹に神経が細いとよく言われます。その特徴が悪い方向に出たのが、今回のオリンピックの韓国戦の投手交代の遅れでしょう。2点リードしたところで和田を引っ張ったのも、藤川、上原とまだ救援投手がいるにもかかわらず、9回まで岩瀬を引っ張ったのも、これ以上点が取れず同点で延長戦という悪い結果から逆算して、タイブレーク方式になったときのために三振のとれる藤川を温存したということだったのでしょう。このような細心の注意を払う(悪く言えば小心)采配は、ペナントを争う長期のリーグ戦にはよい結果をもたらしますが、短期決戦では勝っているときの勢いをそぐことになってしまいます。
 そして、チーム作りを含めた長期的な戦略面での星野監督の特徴は、日頃の持続的な「つながり」や「信頼」を大事にするということにあります。そのことは、今回の田淵、山本工事という大学時代以来のつながりのあるコーチ陣(大野コーチは山本浩二とのつながりです)にも端的に見られますし、直前に故障した川崎や西岡を外さなかったのもその現われでしょう。それによって、チームの一体感は容易に作ることができます。それは長期的にはプラスに働くでしょう(悪く言えば「仲良しグループ」になっているということですが)。しかし、短期的に調子がよい者でも日頃のつながりや信頼がない者を入れにくく、異質な者同士がゲームをしていくうちに生まれてくるチームの一体感という、異様な盛り上がり(短期決戦で必要な「勢い」)は生じにくいのです。人類学的にもゲーム理論的にも、信頼と協力関係は、反復・持続する中からしか生まれず、長期的には、星野監督のやり方は間違っていないと思いますが、短期決戦にはなかなか有利に働かないというわけです。
 ただ、人類学者としては、日常的なつながりや信頼関係が最後には有利に働くということを、日本代表に示してもらいたいと思っています。それの有利なところは短期的に試合に負けても、その信頼関係が崩れないところにあります。つまり、予選リーグで2、3敗ぐらいしてもチームの一体感は持続するわけで、そこに期待したいと思います。もっとも、きょうカナダに負けて、下手して1次リーグ敗退なんてことになると、チームの一体感は持続するが、チーム自体袋叩きにあうことになりますからね。