2007-01-01から1年間の記事一覧

もうすぐ1年

このところ、卒業論文の指導(私の勤めている大学では提出締切が12月20日)やら家族の入院やらで時間がなく、気づけば11月3日からブログを書いていませんでした。そして、もう一つ気づけば、去年の12月30日にブログをはじめてあと1日で1年たちます。これ…

樫村愛子『ネオリベラリズムの精神分析』を読む(ついでに宮台真司『亜細亜主義の顛末に学べ』も読む)

樫村愛子『ネオリベラリズムの精神分析――なぜ伝統や文化が求められるのか』光文社(光文社新書)、2007年7月刊。 Isbn:9784334034153 本書のテーマは「はじめに」で明確に書かれています。樫村さんは次のように述べています。 社会の流動化が進むことで、社…

「野球の最も美しい瞬間」について

日本シリーズでの完全試合目前の投手を交代させたドラゴンズの落合博満監督の采配がブログでもちょっと話題になっているようですね。野球解説者の何人かも疑問を呈していましたが、ブログでの賛否両論の議論に火をつけたのは、玉木正之さんのホームページで…

加藤秀一『〈個〉からはじめる生命論』を読む

加藤秀一『〈個〉からはじめる生命論』日本放送出版協会(NHKブックス)、2007年9月刊。 Isbn:9784140910948 C1312 加藤秀一さんが以前、井上達夫さんの「胎児の生命権」を尊重せよという議論を批判した「女性の自己決定権の擁護」*1という論文を読んだとき…

クライマックス・シリーズ導入の責任は大きい

25日は、我が(オーナーじゃないけどね)ドラゴンズがジャイアンツに負けてがっくりしています。でもまだM7はドラゴンズに点灯中。26日の対ジャイアンツ最終戦に勝てば、ドラゴンズ史上初の連覇は間違いのないところ(と思いたい)。 しかし、今年のセ・リ…

『現代アメリカの陰謀論』を読む

安部首相のあまりにも不可解なタイミングの退陣表明のあと、ウェブ上ではアメリカ・ブッシュ政権の陰謀とか某カルト宗教団体の陰謀など、「陰謀論」が飛び交っているようです。「陰謀論」は、マスコミではほとんど流れていないという点に特徴があります。逆…

「小田亮の研究ホームページ」の更新のお知らせ

……たしかに流通力とその範囲を問題にするかぎり、小さな言語は敗けいくさを戦わざるをえないだろう。遺棄されていく小さなもの。この現代性の形姿をここにも確認するほかはないのだろうか。しかし、小さな言語が放棄を迫られるままに消えていくのでないとす…

「異質性」や「多様性」って何だろう?

昔に読んだエッセイか何かで(誰がどこに書いたものなのか完全に忘れましたが)、「日本の街角で群集を見ると、みんな同じ黒い髪をしているので不気味に感じる。外国ではいろんな髪の色をした人たちが街を歩いているのに」といった趣旨のことが書いてありま…

近代を「再埋め込み」するということ

今回も人類学っぽい話になりますが、9月上旬に某大学院の集中講義があり、その準備運動をかねて、そろそろ人類学モードにしなければならないのと、前回のエントリーへのかいとばばさんのコメントに応えるとき、まだいろいろ補足しておかなければならないこ…

「客体化」論から「範型化」論へ――システムに抗して

前回のエントリーで、松田素二さんの「切断」という概念について紹介・解説しましたが*1、その際に「切断」と「範型化」との関係について説明が分かりにくかったかもしれません*2。この「範型化」は、ある意味では「切断」よりも重要な概念かもしれません。…

〈地続き〉と「切断」――日本の人類学の理論的到達から(1)

このところ、日記や読書ノートで、沖縄やサバルタンや「慰安婦」問題といったトピックが続きましたが、そういった問題を論じるときのさまざまな争点やアポリアもすこし明らかになったと思います。その際の争点やアポリアを解決するには、じつは日本の人類学…

〈地続き〉と「切断」――日本の人類学の理論的到達から(2)

さて、つづきです。 松田素二さんの「切断」という用語のほうから説明しましょう。松田さんは、『抵抗する都市』のなかでは、本質主義的な語りを「均質化」の語り、構築主義的な語りを「異質化」の語りと呼んでいます。松田さんは、「抑圧者・被抑圧者を一元…

大沼保昭『「慰安婦」問題とは何だったのか』を読む

戦時中に「慰安婦」にさせられた国外の被害者に対して、国民と政府によって償いを行なうために作られた「アジア女性基金」については、1995年の設立当時からほとんど批判しか聞かなかったような気がします。設立当時は、メディアにおいてのフェミニストや「…

沖縄の「スピヴァク不在のスピヴァク講演会」での本橋哲也さんの「妄言」

「討論の広場」というブログでのU君による「スピヴァク講演会」の連載記事も第14回となり、佳境にはいってきています。全部で16回ということですから、その完結を待ってコメントすべきかもしれませんが、今回の「スピヴァク講演会14」で紹介されている本橋哲…

スピヴァクによる剽窃疑惑?

きょう一日は家で過ごしました。きのうまでけっこう大学などに出かけていたので、ようやく夏休みが始まったという感じ。とはいっても、原稿の締切は過ぎているし、採点と成績付けがまだ終わっていないから、落ち着かない夏休み第1日目でした。学生より遅い…

「もてる」という基準と「かっこいい」という基準

きのう研究室に若手の人類学者のTさんが訪ねてきて、「人類学の失われた10年」についての話を聞きたいという。でも、話は、最近の若い研究者は、自分が評価されるときや人を評価するときの基準というか軸として、「もてる/もてない」という基準=軸しか考…

「疎外論」の落とし穴について

黄色い犬さん、養田さん、macbethさん、コメントありがとう。3人のコメント、とりわけmacbethさんのコメントを読んで、「感情労働とキレる客」以降の3回エントリの議論では、「疎外論」のもつ落とし穴について充分に留意をした書きかたになっていなかったか…

セネット『人格の腐食』あるいはネオリベラリズムによる「経験の喪失」

リチャード・セネットは、『それでも新資本主義についていくか』(ダイヤモンド社、1999年、原著は1998年刊行のThe Corrosion of Character,つまり『人格の腐食』というタイトルです)のなかで、新資本主義(ネオリベラリズム時代のグローバル化した市場原…

「感情マネジメント」についての再論

morutanさん、chinalocaさん、黄色い犬さん、コメントありがとう。このようにコメントをいただくとブログが続きますね。 さて、みなさん、前回のエントリには納得しかねるところがあるようです。とくに「キレる客」の部分についての疑問が多く出されています…

「感情労働」と「キレる」客

久しぶりのブログへの執筆です。忙しくて、自分でネタを考えて書く暇がありませんでした。これまでけっこう書くことができたのは、書き込んでもらったコメントをネタにして書いたりしていたからですが、こちらが書かないとコメントももちろん書き込んでもら…

近刊『呪術化するモダニティ:現代アフリカの宗教的実践から』(風響社)の紹介

飲み会がちょっと続いて、ブログの更新もご無沙汰でした。前回のエントリではコメントが読み応え的にも量的にも盛り上がって(書き込みしにくいコメント記入欄にもかかわらず)、黄色い犬さんがけしかけている(?)ように、コメントを受けて新しいエントリ…

中野麻美『労働ダンピング』を読む

中野麻美『労働ダンピング:雇用の多様化の果てに』岩波書店(岩波新書)、2006年 Isbn:4004310385 労働問題を扱う弁護士でNPOの「派遣労働ネットワーク」の代表をしている中野麻美さんは、まず、それまで労働基準法で違法とされていたけれども、1986年に施…

「真正性authenticity」という語について

Macbethさん、コメントありがとう。エントリとは関係のないコメントでも大歓迎です。このブログでは、コメントでの他の人のことばからものごとを考えていくことが多いので(良く言えば「対話」的思考ってことですが、「対話」というわりには、他人の言葉はた…

「自己の確立」と「共依存」について

Morutanさん、コメントありがとう。このところ忙しくて応答が遅れてすみませんでしたが、以下のような質問をいただいていましたね。 ところで質問なんですが、ぼくは「メタな位置をとることによって対話の可能性を排除してしまうことの損失は情報力が少なく…

オリエンタリズムと対話的自己について

黄色い犬さん、養田さんコメントありがとう。 前回の4月18日のエントリは、たしかに、人を怒らせてしまうだけの言い方になっていたかもしれませんね。その辺りは反省したいと思います(なかなか直りませんが)。本来ならば、内藤朝雄さんのブログで直接に表…

自分のアイデンティティのために他者を他者化することをオリエンタリズムという

私はインドの専門家ではないし、もう誰か取り上げて批判していると思うので、放置しておいてもいいかなとも思ったのですけど、「釣り」にしてもちょっとひどすぎる「他者」の利用の仕方なので、あまり気は進まないけど、社会学者の内藤朝雄さんの「伝統を大…

なぜ帰宅後にすぐ手を洗うのか

大学でも新学期が始まりました。私が学生の頃は、授業が本格的に始まるのはゴールデンウィーク明けという感じでしたが、いまはそうもいきません(昔も学生が連休明けから行けばいいやと思っていただけで、授業はあったのでしょうが)。さて、文化人類学入門…

東浩紀/北田暁大『東京から考える』を読む

久々の、そして2回目の「読書ノート」です。今回取り上げるのは、 東浩紀/北田暁大『東京から考える:格差・郊外・ナショナリズム』日本放送出版協会(NHKブックス)、2007年 isbn:9784140910740 です。刊行されてからまだ2ヶ月ちょっとなので、新しいと…

教科書検定についてもうひとつだけ

教科書検定での沖縄戦の「集団自決」の修正の話題は、日本ではそれほど盛り上がらずに終わりそうですね。東京都知事選では、「空疎な小皇帝」*1である石原慎太郎が優位だとか。小泉純一郎もそうでしたが、白でなければ黒という単純な二元論が受けているとし…

「ネオリベラリズムの文化」文献

明日は大学の入学式です。そろそろ授業の準備をしなくてはならない時期になってきました(本当はもっと早くしていなきゃいけないんだけど)。講義のひとつは、副題が「ネオリベラリズムの文化」です。まあ、コマロフ夫妻の『千年紀資本主義』の副題をパクっ…