『アンチ・オイディプス』の新訳について

ドゥルーズ=ガタリの『アンチ・オイディプス』の宇野邦一さんの新訳が河出文庫から出たので、期待して買ってみた。というのは、旧訳では、第3章の人類学的文献(主にイギリスの社会人類学)を引用しながら展開される議論での人類学用語の訳語が、人類学的用語とは分からない訳語になっていたからだ。それが改善されているかなと期待して、新訳の第3章の見たのだが、期待は裏切られてしまった。そこでの人類学的用語は旧訳の訳語を踏襲していたのである。lineageは「家系」と訳されているが、これではそれが地縁的な出自集団を指していることを理解するのは困難だろうし、リネージ分節や分節体系を指すsegment やsegmentaireは 「線分」「線分的」と訳されている。「線分の首長」とか「小さい線分」が、「地域分節集団の首長」や、分節体系における「下位のほうの地域分節」を指していることを理解するのは、なおいっそう難しいだろう。イギリス社会人類学のリーチやフォーテスを引用しながらの議論なのだし、もっといえば英語の「分節体系 segmentary system」自体、デュルケームの「分節社会(環節社会)société segmentaire」というフランス語から来ているのだから、人類学や社会学で使っている訳語にあわせてほしかった。もっとも、旧訳以来、誰も人類学者が指摘しておかなかったということで、人類学者の責任でもあるかもしれないと、反省もしたところでありました。

この日記を書いたあと、新訳『アンチ・オイディプス』はまだ読んでいないので、読書ノートはまたいずれ。