なぜ消費税の増税なのか

 麻生首相が30日、全世帯を対象とした総額2兆円規模の給付金支給などを柱とした追加経済対策を発表した際に、3年後の消費税率の引き上げを明言しました。消費を拡大するための政策を発表するときに、増税を明言するって、給付金支給の効果を無にするようなものなのじゃないのかな。ただでさえ、不況の際の一時的な給付金や減税は将来の増税を予想しやすいので消費に回らないと言われているのに、首相みずからだめを押すとは不思議です。もっとも、ご本人もまずいと思ったのか、31日になって、景気が回復すればという条件を強調したらしいけど、もう遅いって。河村官房長官は31日の記者会見で、「未来を考え、国民にきちっと説明をしたことは評価されるべきだ」と言ったようだけど、ただでさえ弱い景気対策を台無しにした責任のほうが重いでしょう。
 でも言いたいのは、なぜ消費税の増税なのかということです。消費税が逆累進的なもので、低所得者に重くなるのは常識ですが、格差是正が言われているときに、なぜ所得税の累進的課税と相続税による増税ではなく、消費税なのかがわかりません。消費税率を引き上げるときによく、税の「直間比率の是正」と言われるけど(また言われるのかもしれないけど、日本は直接税の比率は高くないみたいです)、これは富裕層への減税とセットで行われ、相続税の減税を含めると、この20年間ほどずっと続けられてきた富裕層を優遇するための政策であることは明白ですよね。そのときに持ち出されるのが、高額所得者がお金を稼ぐモチベーションが損なわれるというのと、富裕層が経済的活動を引っ張れば貧困層にまでおこぼれがいく(仕事が増える)という理屈だったと思います(他になにかまともな理由があったなら教えて下さい)。しかし、その両方ともこの20年間を見ていると、根拠がないような気がします。おこぼれはほとんど貧困層には行かず、富裕層は産業も雇用も生み出さないような金融活動にいそしんできたようです。
 相続税所得税累進課税を再び強化したほうが、富裕層も生きているうちに消費や社会に還元しようというインセンティヴになりますし、少数の富裕層を優遇するよりは多数の低所得者層(富裕層に比べれば低所得という意味ですが)に再分配すれば、消費拡大のうえで最も効果的でしょう。再分配を何のためにするのかといえば、「平等」だと人間の尊厳が守られるからではありません(お金の再分配だけでは守られません)。また、低所得者層が搾取されているから正当に戻すというのでもありません。労働者ではない人、働いていない人は搾取されているとは言い難いでしょう。困っている人に手を差し伸べるという人間性からでもありません(それは身近な人になら、つまり真正性の水準であれば、当然の行為ですが)。再分配しないと経済的にも社会が成り立たないからです(社会なんてない、社会なんていらないというのが、再分配を縮小するスローガンでした)。私としては経済的な理由以外の理由を重んじますが、そうではない人もいるでしょう。そういう人たちにとっても、恒久的な再分配こそ効果的な景気対策であり、富裕層が経済を引っ張って社会を活性化させるなんていう、金融危機にはじまる世界的不況によってすでに迷信となった富裕層優遇政策より、ずっとまともな経済政策であるという理由から、再分配の必要性を考えてほしいものです。
 ですから、最初の疑問に戻れば、なんでいま景気対策をしようとするときに消費税の増税なのでしょうか。経済学の門外漢にもわかりやすく誰か教えて下さい(最もわかりやすい答えは、自民党の支持者が富裕層だからというものですが、あやしいですね。麻生さんは富裕だろうけど、支持している人たちは、私のような富裕層には見えないけど)。